「余白の愛」(小川洋子)


作品としては、博士の〜の方がよく出来ていると思う。
突発性難聴」を患う主人公と速記者との交流、そして記憶の世界と現実の世界との交錯、に関する作品。
明らかに日本語の建物の名前なんかが出てくるのに、頭の中に思い浮かぶのはなぜか見たことのない外国の風景。幻想的な作品だと思う。


‘耳’と‘指’についての描写がとても多い。
それも体の一部としてでなく、主体的な生き物として。


どうでもいい話だけど、私がついじっと見てしまうのは‘目’で、つい触りたくなってしまうのは‘髪’だと思う。


小学校のとき先生が、「話している人の目を見なさい」というので忠実にそれを守っていて、大学に入っても、少人数のクラスで近い距離から教授の目をじっと見て話を聞いていたら、
「人はパーソナルスペースというものを持っていて、相手との関係に拠って快い距離が決まる」というような内容の話をされた。
明らかに私に向けて。
明らかにぎょっとされたみたいだ。
教授に気があったわけではないのに。